読書
松本清張『点と線』を読む。アリバイ工作、時刻表を使ったトリック、官民の癒着、責任をとらされる現場責任者。古典的ともいえるミステリーの手法が、60年以上前に完成されていて、今読んでも色褪せないのに、驚きを禁じ得ない。この事態を機に、同郷の偉大…
池上彰・佐藤優『知的再武装 60のヒント』を読む。45歳が人生の折り返し、その後は新しきは頭に入らないと聞き、知の巨人たるお二人が経験されているのだから、いわんや己をやだった。固い話ばかりではなく、趣味やネットとのつきあい方、人間関係についてな…
今更だけど劇団ひとり「陰日向に咲く」を読む。各々のストーリーが、少しずつ絡んでいて、ああそういうことだったのね、と納得させられる。あれだけ笑いをとれるのだから、期待を裏切らない巧さが文面にも。いずれ長編小説も書いてほしいな
新田次郎「縦走路」を読了。美人女流登山家を二人の山男が熱をあげる。やや時代かかったきらいもあるが、いつの頃も同じような三角関係はあるのかも。にしても、氏の小説は人間はあくまでも従。山々こそが主であり、微に入り、細を穿つ描写で、雄大で圧倒的…
たどり着いた充足に引き換え、あまりにも寂しい結末。読後、しばらく何もしたくなくなるような虚脱感に襲われた。 主人公の彼女は父の影響を受けて美術を志して田舎から上京し、生活を維持するために、偽物を扱うギャラリーで不本意な営業を行うが、数字を上…
作者は猟師を生業としたく、在学中から京都の山里に住み、裏山から降りてくるタヌキやキツネに慣れ親しむ。 廃れつつある猟環境のなかで、ベテランや先輩に恵まれ、猟師としてのキャリアを重ねていく。文庫にも、獣を捌いた生々しい写真が何十ページと掲載さ…
知らなかった。9・11後のアメリカの武力行使決断にこんな裏話があったのか。 アメリカのイラク侵攻は記憶に新しいが、テレビゲームの世界のように、機械が文字通り機械的に人を殺す印象しかなく、戦争が生身の人間の殺し合いからかけ離れたところでなされ…
コミカルでキッチュ、へえこんな作品もあるんだ。代表作「楽園のカンヴァス」に引き続いて読んだ印象は軽やかだった。 政権与党政治家の長男美智之輔は、乙女心を持った大学生。政治家としての将来の嘱望から逃れ、芸術に生きる彼はパリ留学の機会を得る。そ…
美術鑑賞を嗜むなら原田マハさんは外せない。先輩や友人に何度も勧められておきながら、ためらっていた。今回、ようやく重い腰を上げて本書を手に取り、ああ、もっと早く手に取れば良かったと後悔しているところだ。 物語は大原美術館の監視員、早川織絵が同…
髙村薫さん最新作にして、警察モノの最高峰。 本書はハードカバー500ページを越える超大作で、約一年間毎日新聞に連載された。 警察モノいうと血なまぐさい殺しのシーンだとか、諍いや怨恨といったマイナスイメージが想起されるが、高村作品はショッキングな…
山女日記と出会ったのは、南アルプスの山小屋「馬の背ヒュッテ」の書棚。湊かなえさんは登山本の著書があるなんて知らなかったので、ドキドキしながらめくってみた。 本書は8つのショートストーリーから構成されている。雪山や登攀などのいわゆる登山家では…
映画化されたアジアンタムブルーの前作、序章となる物語。 主人公の隆二は喫茶店で泣きはらす由希子に思いがけず出会い、声を掛けるところから運命が回り出す。 隆二に恩を着た由希子は、隆二の就職先を探す。2人は仲を深めるが、隆二の犯した過ちで19年もの…
成年雑誌男性編集者が、気鋭の女性カメラマンと恋に落ちるが、彼女は難病を患い、最期を看取る旅に、想い出の地、南仏ニースへ旅立つ。 アジアンタムブルーの緑生、ニースの紺碧の海。この本の主題は、2人の男女のようでいて、実は物言わぬ植物であり、穏や…
四十半ばにして、家庭や仕事以外に居場所を探そう、それにはまず家族の待つ自宅とは別に、自分のためだけの別宅を持つのがよかろう。 これくらいの歳まで生きてくると、なかなか新しい関係性を構築するのは難しい。著者の試みや如何に? 雑誌の企画とはいえ…
台湾在住の友人からこの本を紹介され、手にとった。なるほど、面白い。 台湾、日本、中国本土。共産党と国民党の間で揺れ動いた、「中国人」の家族の物語である。 台湾にいればこそ、その喧騒、舌で味わう料理、靄を含んだ亜熱帯の空気、常に大陸を意識せざ…
いくつになっても挑戦はできる。この言葉と三浦さんの実行力にどれだけの人が勇気づけられたことだろう。 著者は80歳でエベレストに登頂した冒険家。何度も死の淵に立たされて、運良く生還したという。他の著名な冒険家も誰かしら述懐していたが、臆病である…
我が街、谷中を総浚いしたバイブルともいえる著作です。 読んでみても、意外とすんなりと入ってくるのは、谷中の街の成り立ち、人びとの風習、墓地などの歴史的経緯と、過去に焦点がおかれ、街歩きの際、気になりそうな事物の由来が、網羅されているからでし…
パッキングを始めて2時間、ようやく明日の山行の準備を終えました。はじめての一泊二日山小屋宿泊を目前にして不安がありましたが、本書の案内に従って整えましたので、不安を和らげるのに大いに役立ってくれました。 山小屋に泊まってみよう の項だけでも ①…
相当きてるといったら、言い得ていないかもしれない。 山に入ったら、ありそうかもしれないと感じることがある。 いないはずの人の気配だったり、羽ばたく鳥たちの羽音や鳴き声、獣たちの土を引っ掻く蹄。突風が木々を搔き鳴らし、流れた葉が頬を伝う。目に…
唖然とした。絶句した。率直な物言い。ここまでとは。 本書は伊集院静さんが週刊文春で連載していた、読者からのお悩みに答える形式で連載していた記録を収集したものだ。 感想だけ書いても伝わらないだろうから、一部の要旨をご紹介する。 Q 結婚式のスピー…
この本と出会っていたら、青春時代がもっと楽に過ごせたかもしれない。 大人になってから、青春モノや学園モノをいつしか避けるようになっていた。それには、気恥ずかしさや、あの頃と同じような感情をいだいて、読むことはできないという、断定に近い偏見が…
奥秩父にある地味な山小屋をめぐるドラマ。こう書くと、遭難と捜索、恋愛、雪解けと悪天候、出会いと別れなど、ふんだんに山にまつわるエピソードが盛り込まれているように思えるが、実際そのとおりであり、劇的ではない、日常の延長上に、この本の魅力が詰…
タイトルからして北方ワールド炸裂!あまりにもハードボイルド。男を上げるなら読まなきゃいかんでしょこれは。 私は不定愁訴のように、北方作品の波に飲まれる。飲まれて、揉みくちゃになり、天地がひっくり返るが如くクルクル廻され、引き裂かれ、ずぶ濡れ…
恥ずかしながら、山田詠美さんの作品を読んだことがなかった。もちろん、高名は轟いているし、評判だって耳にしている。特に、女性からの支持が圧倒的だということが、私をはじめの一歩から遠ざけていたように思う。いいらしいよと、聞けば聞くほど、頑なに…
貧乏(今だって、余裕がある生活とはいえないだろたうが)だった学生時代、若くて、先がら見えなくて、それでも未知の豊かな、光り輝く将来を信じることができた頃を思い出した。 主人公は地方出身のフリーター。父母を相次いで亡くし、金銭的な苦しさから大…
難儀だった。続出する技術系単語。一文に3つも4つも知らない語が出てくる。難読は更なる難読を招き、始点と終点は全く懸け離れた果てしない連環のように思えた。 しかしなんとかクライマックスを見るに至った。根気強く先を追いかけさせてくれたのは、物語…
タイトルを見て、表紙の美しい青空と、透明な海に導かれるように本書を手にとった。題からして、コメディなタッチかと思いきや、少々そうした側面もあるにはあるが、この作者オリジナルのハードボイルドな空気感を纏い、かつ多分に居住まいを正されつつ読み…
どこまでも斬新な内容だ。 タイトルだけを見れば、技術的な面をメインに、介護とはこういうものだから、心しなさいよ、あるいはほどほどにしましょうや、と読者を慮り、あなたは一人ではない的な寄り添いが試みられるのが、通常であろう。 しかし、本書はむ…
佐伯琴子さんの「狂歌」受賞式に参列。 メインは、選考委員の辻原登、髙木のぶ子、伊集院静の大御所三氏を交えた座談会。ここで、選考委員が受賞者をいじり倒し、かつ受賞作の面白さと、新人作家の横顔、遍歴をほじくり返し、ときには大いに激賞し、ときには…
カウンター越しに丼物を客に提供する店長。 表紙どおりそこかしこのチェーン店で展開される風景を想像しつつ、手に取ると、そこには店長たちの苦悩と喜びと、人間ドラマに満ち溢れた連作が繰り広げられていた。 女手一つで創業し他人丼を全国展開させた会長…