谷中ハチ助のブログ

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【読書】イスタンブールの闇/髙樹のぶ子

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 高樹先生の作品を初めて読んだ。艶っぽい。思い浮かべたのは高樹先生ご本人のお姿だった。失礼極まりないが、実際そう思ったのだから仕方がない。

 

 しつこくこの投稿で紹介していて恐縮だが、先月、文学賞の授賞式で生の高樹先生を拝見する機会を得た。艶やかな着物姿で、先生は何を着れば似合い、自身がいかに映え、大御所作家としての貫禄を投影することができるのかを十二分にお知りであった。御年70を超えているとはとても思えない、美しさと煌きを放っていた。

 

 そんな先生が20年前に描いた作品は、生まれ故郷に近い町・津和野とイスタンブール郊外のノズニク、二つの焼き物の町を陶芸家の母と息子と姪、トルコに住む自分が父親になったことを知らない男の4人が、歪な四角形を描きながら舞台は展開する。4人の関心の中心は、イズニクで幻とされる朱を再現することにあるが、その謎解きに、理性では測れない情念が躍動し、4者4様に思いは千々に乱れ、交錯し、ぶつかり、ときに反発し合う。

 

 4人がそれぞれに色を持っていて、他者との関係において混ざり合えば、絵の具の色合わせのように思いもかけぬ新しい色を紡ぎ出す。なるほど、だからこそ、人と人とのつながりは面白いし、ときとして憎らしくもなる。文学が面白いと思えるのは、この作品のように、現実の人間同士の距離感を、定規で計ったかのように、寸分の狂いも無く鮮やかに見せてくれるからではないか。勝手な解釈に過ぎないかもしれないけれども。