谷中ハチ助のブログ

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【読書】浅草のおんな/伊集院静

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 浅草の話である。まるで浅草に暮らしているかのように何もかもが詳細に描かれている。通りの名前、花の名前、祭りにかける意気込み、男と女の機微。すべてがこの一冊に詰まっている。浅草を知りたい人がいたら、僕はこの一冊を勧める。台東区民だが、浅草の良さをこれ以上うまく描き切れる作品に巡り会えるとは思えない。

 

 話は、浅草に流れ着き、一命をとりとめたおんなが、親方の助力を得て開いた小料理屋を切り盛りする一代繁盛記である。主人公志万は、気立てがよく、親方亡き後にも、後輩たちから言い寄られるくらい慕われている。それだけではなく、カッチャンや保険屋さん、土建屋さんなど、馴染みの客を通じてのやり取りも小気味よいが、お高く留まっているところなどが全くなく、謙虚。が、一本通っていて、身投げした女を引き取り、思いとどまらせるなど、人情味が溢れている。

 

 朝顔市、鬼灯市、三社祭り、隅田川花火大会と、浅草の歳時記が、織り込まれ、季節の移り変わりと人々の人間模様の織り成す趣きが、眼前に開けるようなリアリティがある。小料理屋志万田に出てくる料理も、どれも美味しそうでそそられる。

 

 本書を通じて、著者が心から浅草を愛してやまない気持ちがビンビンと伝わってくる。心憎い作品である。