谷中ハチ助のブログ

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【読書】天使の卵/村山由佳

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 恋愛小説である。あまりにもストレートな恋愛小説。こういう作品をいつか書いてみたい、人を好きになる気持ちを真正面から見据え、逃げ道がないくらいに突き詰める。誰にでも人を好きになった経験はある。でもそれを上手く書くことは別問題だ。この小説はそれを決行する。誰のものでもない物語が心を打つのは、物語の中に自身に照らし合わせて、身に覚えがあるからだ。

 

 本作は村山由佳氏のデビュー作である。29歳の時に描いた作品だ。若い感性が書かせたような側面を見た気がする。そのときだから、書けた、書いた必然がある気がする。

 

 最近こういう恋愛はしていない。当然である。おっさんになって、こんな感情は持てなくなって久しい。家庭人であって、こうした傾向は世間的には好ましいのだろう。

 

 恋愛小説のことを書くと、自身の恋愛経験を問われているような気恥しさがあるので、以下、小説すばる新人賞となった本作品の選考委員の先生方の書評をもって作品の感想に替えさせていただく。すみません。

 

 「恋愛をあまりに正面切って扱っていられる大わざに、ちょっと感慨をもった」(田辺聖子氏)

 「ここにはたしかに、濃密な青年の息吹があり、それをかき込もうとする作者の柔軟さと、感性の良さが作品を引き立てている」(渡辺淳一氏)

「感性はみずみずしい。『恋愛小説はこんなものでしょう』と言われれば、そうかもしれない、とも思った」(阿刀田高氏)

 

 著者曰く、「読んでくれた人のうち、ほんの何人かでいいから心から共感してくれるような、無茶苦茶切ない小説が書きたい。」

 

 著者の思いが、多数の恋愛小説を書いてきた選考委員の先生方の恋愛小説の在りようを新人にして揺さぶったのだから、それほどまでの作品だということだと思う。恋愛小説を読みたいのなら、この本はオススメ。