【読書】誰のものでもない悲しみ/辻原登
運命に引き寄せられて女に出会ったと信じる男が、女を巻き込んでいく一方、女も受け身と見えるや、実は主体的に男を導こうとしていたという必然の一致が見られる。
出会いや恋愛は、往々にして直感という名の思い込みであって、それぞれの磁力が種類が違ったり、一致したり、詰めていたり、撓んだりと、両者の間にある共鳴する力(場合によっては反発しあったり、そもそも感応しなかったりするのであるが)は、後付けで「運命」の一言で片づけられる。
男は女のために幻の金魚、ハマトウを得ようともがくが、得られなかった場合でも、女の男に対する愛は変わらない。なぜなら、女は男に対する気持ちがどのような結果であれ、揺るがないことを予見していたからである。
翻って、わがことに意志の弱さを今一度問うてみる。本当にこのままで良いのかと。