谷中ハチ助のブログ

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【読書】孤高の人(上・下)/新田次郎

 

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 登山の話である。それも超ド級の伝説の登山家の話である。上下巻で約1,000ページとボリュームもあるが、ずいずい引き込まれた。このゴールデンウィークを使って一気に読むことができ、大変満足している。

 

 主人公は実在した人物加藤文太郎をモデルにしているらしい。加藤に比べれば、私のやっている日帰り登山なぞ、ハイキングのハの字にもならない代物かもしれない。恥ずかしくなる。それくらい加藤の登山には困難が伴っている。

 

 加藤は生まれついて、山が好きだった。山に行くと清々する。会社員であるが故の仕事も家族も忘れられる。雑事から逃れられる。苦手な人付き合いからも逃れられる。それゆえ、正しくないとされる単独での登山がスタンダードな形態となっている。

 

 この点私も共感できる点は多い。我儘だし、人からとやかく言われるのが好きではない。基本的に僕の人生、ほっといてほしい。友人と何度か予定を合わせようとしたがうまくいかない。もういいや待っていられない。山が逃げてしまう。だから単独行になる。

 

 でもそれが行き過ぎると人恋しくもなる。単独で山に入ったのに、人恋しくて他人と動向を申し出るが断られる。そして、断られた相手が雪崩で亡くなる。そうか、俺は単独行しかないのかと、改めて腹を括るようになる。

 

 加藤は、夏のアルプスに飽き足らず、冬山、しかも穂高、富士山、立山と日本を代表する山に厳冬期に挑戦する。それらで時には足を踏み外して深雪に嵌り、吹きつける飛雪のなか就寝を強いられる。疲労から幻聴にも苛まされる。それでも、己の経験を信じ、冷静な分析をもとに次々と困難を克服していく。変わり者だった彼は、いつの間にか日本を代表する登山家となり、忌み嫌っていた人も、尊敬の念をもって支援する側に回っていく。

 

 著者は生前気象学の第一人者であったという。雲や雨、雪、刻々と移り変わる山の天気についての博学振りは当然であり、読みごたえがある。 それだけではなく、他人がなしえないことを為し遂げていく緻密なプロセスと、関係する人物の情景が丁寧に描かれ、人間ドラマとしても面白い。山を愛するすべての人に読んでほしい作品である。

 

 僕もますます山に興味を持つようになった。そして、自分もいつか冬山に行ってみたい