【読書】栄光の岩壁(上・下)/新田次郎
両足先を凍傷で失った竹井岳彦が、日本一のクライマーに成長する過程を描いた苦闘の物語。
彼とともにザイルを組んだ友人や先達が運悪く立て続けに死に巻き込まれ、岳彦は生き残ってしまう。そのことから世間は彼は痛烈な批判にさらされ、彼自身も山への向き合い方を悩み抜く。しかし、彼には結局山しか残らなかった。
クライマックスでは、両足が出血にまみれ、意識が遠のき、死に直面するも、ついには日本人初のマッターホルン登攀の快挙を成し遂げる。
真剣に、逃げることなく向き合った人生には、彼を支える友人や家族がそれこそ沸いたように出てくる。羨ましくもあり、悲壮感すら漂う。人生を生ききり、味わい尽くすことができるような喜びと悲しみに満ち溢れた作品が、深く脳裏に焼き付いた。
「孤高の人」、「栄光の岩壁」、「銀嶺の人」。新田次郎作品山の三部作を読み終え、山への思いがますます強くなった。主人公たちには、足元にも及ばないけれども、今週も自然のただなかに身を寄せる。山の、緑の息吹を感じると都会での出来事を洗い流してくれるような気がしてくるからだ。