【読書】じっと手を見る/窪美澄
介護士の男女を中心に織りなす連作短編集。一つの物語を多数の視点から構成する連作短編集。
窪美澄の作品が好きだ。現代の働き手、労働者の視点を率直に、押しつけがましく無く描かれている。それでいて、胸に迫るモノがある。介護は過酷な誰もが嫌がる現場だ。真正面から描けば、正視できない現実がそこにはある。
しかし著者は、若者、壮年、男女、それぞれの視点を通じて、自分が誰かと緩やかに繋がっていて、それが大袈裟にいえば救いになっていることを精緻に書き切っている。そこには、私が書かなくて誰が書くんだという決然とした意志を感じずにはいられない。
著者曰く「たまに、小説を書くことは電気ノコギリ持ってふりまわしているようなものだなあ、と思うことがあります。」と述べているとおり、ちょっと乱暴かもと思える箇所もあるけれど、それも御愛嬌。
恋愛小説としては?かもしれないが、男のぐちゃぐちゃした気持ちが分かる著者をいつも怖いと思ってしまう。毎度のことだが。
直木賞、とってほしかったな。