谷中ハチ助のブログ

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【読書No.67】介護入門/モブ・ノリオ

 

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どこまでも斬新な内容だ。

 

タイトルだけを見れば、技術的な面をメインに、介護とはこういうものだから、心しなさいよ、あるいはほどほどにしましょうや、と読者を慮り、あなたは一人ではない的な寄り添いが試みられるのが、通常であろう。

 

しかし、本書はむしろその対局に主眼がある。ばあちゃん子であった主人公が、仕事を辞め、家庭の事情もあるが、究極としては、極個人的な事情で、進んで、重度の要介護である祖母の繦を変え、食事を口に与え、寝返りをうてるように昼も夜もなく、つきっきりで母と祖母の面倒をみていく、先の見えない介護生活に没頭する。

 

母以外の親類は上っ面の心配だけで、真に祖母の世話をしようとしない。そうした親戚を唾棄し、稼ぐ手段を失い、それでも介護を厭うことのい主人公は、親戚との蟠りや不和や、祖母への追慕を愛するラップに託して、思いを打ち明ける。YO、朋輩、と。

 

本書によれば、介護は愛情の裏返しでしか、前向きに取り組むことができない。それは一面の事実だろう。だが、そうであるなら、身寄りもなく、最果ての地に追いやられるような孤独に苛まれるような、マイナスの感情しかもてない、およそ一般の普通の人々が直面する絶望にどう答えればいいのだろう。

 

私は、介護の経験はないに等しいが、回復の見込みの無い父母を看取った経験がある。もし、主人公はのような立場に追い込まれたら、呪咀を吐くしかできないかもしれない。そして、それは愛情だけをもって解決できるものではないと思うのだ。

 

人間はあまりにも辛い状況に立たされると、自己を肯定できなくなるものだ。この作品は、なるほど、こういう見方も、表現もあるのか、冷や水を浴びせられたような、そんな体験だった。