【読書No.63】 凍/沢木耕太郎
読中から、寒気がする。震えが止まらない。
タイトルどおり、凍える内容だった。
エベレストに連なる山々を登攀する、日本を、いや世界を代表する夫婦の物語。
寒さに凍え、餓えに耐え、次第に効かなくなる身体の自由。それでも2人は頂上を、生還を諦めなかった。
「好き」を突き詰めた、その先には誰もなし得なかった世界が広がっている。言うは易しだが、行うは難し。
人の人生はなんとも短い。己がなし得ない経験をし、及びもつかない限界を超えていくごく一握りの人たちがいる。
私たちは彼らに随行して、見聞きすることはできない。だが、それを想像し、共有できるツールの一つとして、文章がある。
今回の読書は、目を背けたくなるような、痛々しい喪失、それと同時に、あるいはそれと引き換えに得られる喜びと経験を文章を通じてまざまざと見せつけてくれた。
本書はこのような読書の醍醐味を存分に味わうことができる一冊だった。
この本を紹介してくれた先輩に感謝したい。