谷中ハチ助のブログ

登山、読書、ベイスターズ情報を谷中からお届けします

【読書】望郷の道(上・下)/北方謙三

f:id:yanakahachisuke:20180510080138j:image

 

九州を追われた俠者が、台湾に渡り、菓子屋として成功を収め、故郷に錦を飾るまでの物語。

 

時代は明治から昭和初期の日本の対外進出の時期と重なる。己に厳しく、緻密で周到な準備を巡らす主人公藤正太が、時代に翻弄されながらも、家族を支えに、力強く生きていく。

 

作者は佐賀の出身で、キャラメル工場を建てた曾祖父をモデルにしている。文中、熱を帯びたよう質量を感じるのは、作者の並々ならぬ意気込みを感じるからだろう。映像だと、NHKファミリーヒストリーを髣髴とさせるような赴きがある。

 

北方作品は、水滸伝、楊令伝など軍記物、中国物が多く、ひとくせもふたくせもある個性豊かな登場人物たちが入れ替わり立ち替わり勇躍して、長編の読み応えがある作品に目が行きがちである。

 

本書もこの系譜に連なる作品に違いない。続きを読みたくさせる造形は、戦後という時代がそれを許さないらしいとあとがき(本人によるものではない)にあり、北方作品を乱読している自分にはなんとなく合点がいった。