【読書】百年泥/石井遊佳
ひょんなことから、元夫から紹介されたやったこともない日本語教師を、これまた行ったことも無いインドで教鞭をとることになる。
この物語の主題は、大都市チェンナイに打撃を与えた大洪水で形成された「百年泥」から、夢とも現実ともつかない物証が湧いて出る。大阪万博のコイン、人魚のミイラ、子供や若者らの人間。ん、人まで?そうしたファンタジーがそれぞれに長短の物語が紡がれてゆく。
私には、会社の命で日本語を学ぶインド人会社員たちが、主人公の女性とのなれ合いを超越した心の交流まで至る過程が良く描けているように思えて、ほのぼのした。
私も一度インドを旅したことがあるが、東南アジアやアフリカ社会にもない、ザ・混沌ともいうべき状況があった。この作品はその状況を垣間見るにはちょうど良い。ただ、現実はもっともっと熱いものがあったように感ずる。あまりにも多い人、人いきれに飲み込まれそうになった経験がそう記憶させているのかもしれない。恐らく筆者は、生活者としてインドに定着しているからこそ、ここまで冷徹にファンタジーを貫くことができたのではないかと推察する。
楽しい本の時間を過ごさせてもらった♪