【読書】香水~ある人殺しの物語Das Parfum – Die Geschichte eines Mörders/パトリック ジュースキント (Patrick S¨uskind)
タイトルの殺人のイメージからは大きく裏切られた。しかし、それは私にとっていい意味での裏切りだった。本書は予めそうした狙いがあるように感じた。そして、まんまと作者の思いどおりに、導かれてしまったのだろう。
主人公は生まれつき私児として産み落とされる。醜い容貌、食うに事欠く環境、助くる者のない孤立。それらを執念で跳ね除けしぶとく生き延びていく。
ある日そんな彼が子女の体臭に導かれる。そこから、天才香水職人としての道を歩み始める。彼の調合する匂いは人々を魅了する。ヨーロッパ中に評判は及び、王侯貴族までもてはやす。しかし、彼はそんな栄誉に興味はなく、ひたすらに究極の香りを追い求める。その先にあった事件とは…
スリリングな物語の展開に、惹き込まれていく。それは五感で最も着目されにくい、嗅覚にこれでもかと迫った作者の意表をついた次々の指摘に、読書が圧倒され、虜になるからだろう。まるで主人公が生み出す香水のように。
物語の終焉の地、南仏グラースは香水でその名を轟かせている。この夏、彼の地を訪れた。今も活況を呈する町のそこかしこに、矜り高い香水の町としての気品を垣間見た気がした。