【読書No.64】 1R1分34秒／町屋良平

ボクシングを観るどれだけの人が、チャンピオンでもないその他大勢のふつうのボクサーを知っているだろう。

業界人やその周辺に身に置く立場になければ、その生態は知るきっかけは少ない。本書は、将来を嘱望されているわけでもない、しかし、ボクシング以外には生きる道を未だ見出していない、対戦相手と夢の中で、戦う前に親友になってしまうという、少し変わった習性を持った、特別ではない若きボクサーを中心に据えている。

ガールフレンド、トレーナーとの遠近、不和、親密。自身の絶望と希望、減量と満腹などが、ありふれた日常とともに、ボクサーという現在空間に馴染まない異質が、まるで同居人のような身近さで胸に響く。

ボクシングのルール、テクニック、試合に向けての減量のあり方など、ハウツー本ではないのに、この本を読めば初心者でも自然とボクシングに親しむようになるだろう。

読後、ボクサー一人一人をもっと丹念に、みてみたくなった。