谷中ハチ助のブログ

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【読書】金魚姫/荻原浩

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 哀愁漂う。荻原作品に通底する図太い骨格はこれだろう。
 
 この作品は中でも哀れを誘う。
 
 物語はブラック企業に勤める若者が、縁日で立ち寄った珍しい品種の金魚・琉金を救ったことに端を発する。
 
 朝起きると水浸しの床、夜ごとひたひたする妙な足音。果たしてその正体やいかに。
 
 主人公は琉金を買い始めて様々な不思議な現象に突き当たる。見えないはず死者が見えるようになり、営業成績はうなぎのぼりで上司からも一目置かれるようになる。
 
 そして振り返る。琉金を飼い始め、琉金と暮らし、琉金に翻弄される日々に。いつしか、琉金が生活の中心にあり、軽はずみで飼い始めた琉金が、生活の中心にどっしりと座ることになる。
 
 その道程が巧みで、不自然さがつゆともない。時に引用される古い書物からの解説が、警句じみたスパイスを利かせ、物語をいっそう引き立たせる。
 
 ほのぼのとして、ちょっと泣ける荻原作品の真骨頂をここに見た気がする。