【読書 reading】ペインレス(上・下)/天童荒太
精神的な痛みを生まれつき持たない女医が、後天的に肉体的な痛みを感じなくなった男を診察する。そこからふたりの関係は変化し続ける。
人間という主体があって、痛みを感じること、これを避けることが当然の前提となっている世界を、むしろ痛みが主体で、人はそれに付随しているに過ぎない存在として描かれている。
なるほど、そんな捉え方もあるものだと不思議な感覚に捕らわれながら読み進める。自らが体験したことがないものだから、どうにもこうにもからだにすっと沁み入るようにはいかない。
エンディングに至るまで、地につかないような、溝をへだてるような、隔靴掻痒の感が抜け切れなかった。
近い将来、肉体的な痛みを感じることのない社会が実現できるかもしれない。でもそれがいいとは思えなくなってしまった。痛みには理由がある。そういうことなのだろう。