【読書No.61】 神々の山嶺(上・下)/夢枕獏
熱くなった。痺れた。上下巻1,200ページにも及ぶ長大なエヴェレストの頂きを目指す物語を一気呵成に読んでしまった。
いわゆる山岳小説推しのレビューを雑観すると、大抵本書が五指に数えられている。納得だ。
最初に世界最高峰に登頂した証拠としてカメラのミステリーと、これに日本人登山家が巻き込まれていく筋立てが面白い。
読めば分かることだが、ヒリヒリするような極限での登山や、刻々と移り変わる天候は、現地に6回も足を運び、一定程度の登山経験がなければ、描き得ない難しさがある。夢枕さんは体験に基づき、この作品に取り組み、構想20年以上もの歳月を経て完成させたという。
読めば、山に行ったことのない人は登りたくなるだろうし、私のような日帰りハイカーですら、もっと難しい山に挑戦したくなる。
山に興味がなくても、生きることの意味を問い直してくれる作品になっているのではないだろうか。
覚めた日常にも、喝を与えてくれるような、坐禅中に警策で打たれたような心地がする。ぜひ御一読いただきたい。