【読書No.68】 人生教習所/垣根涼介
タイトルを見て、表紙の美しい青空と、透明な海に導かれるように本書を手にとった。題からして、コメディなタッチかと思いきや、少々そうした側面もあるにはあるが、この作者オリジナルのハードボイルドな空気感を纏い、かつ多分に居住まいを正されつつ読み進めた。
元ヤクザの無職、内気なデブのライター、引きこもりの東大生、リタイアして暇つぶしのジイさん。出自の異なる4人が人生をやり直すべく、元経団連会長が催すセミナーに応募するところから物語は始まる。
セミナーの開催地は絶海の孤島・小笠原。バラバラだった4人がセミナーを通じてグループとしての結束力を高めるていく。
本筋ではないかもしれないが、本書で最も興味深かったのは、セミナーの講師やゲストが、体感した小笠原、アメリカから返還され、二国間でアイデンティティは揺れる。日本人にも、アメリカ人にもなれた彼ら。
日本の領土として定着した今、島の魅せられ、定着する内地人もいれば、島を旅立つ人もいる。
独特の風土と歴史を背負った島を、物語の進捗とともに知ることができ、ストーリーは面白いし、小笠原の成り立ちも学ぶことができる、一石二鳥の内容になっている。
よくもまあ、というくらい小笠原のことがよく調べられている。作者に脱帽である。
学生の頃、興味はあったが、小笠原に行く決意ができなかった。いつか、行きたい島であることに、よりをかけられた。
行くか行かないか、人生を面白いものにするかしないかは自分次第なのだ、いつだって。
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