【読書No.78】谷中スケッチブック 心やさしい都市空間/森まゆみ
我が街、谷中を総浚いしたバイブルともいえる著作です。
読んでみても、意外とすんなりと入ってくるのは、谷中の街の成り立ち、人びとの風習、墓地などの歴史的経緯と、過去に焦点がおかれ、街歩きの際、気になりそうな事物の由来が、網羅されているからでしょう。過去は不変であり、途切れがちな、手の届きにくいことまで事細かに、地元で生まれ育った著者が、街の生き字引達に丹念に聞き取り、調べ、足で稼いだ足跡がこの一冊に込められています。
例えば
よみせ通り商店街だと、このような記述。
『現実にもどれば、この「よみせ通り」、道灌山下から三崎坂近くまで、バスで二停留所もない。南北に八百メートルほどの商店街である。昔は、初音、坂下商店街といった。
夜になると、夜店がいっぱい出たから、いつしか「よみせ通り」の名がついた。私の子ども心にも、昭和三十年代までは、夕暮れ時の暗くなる空の下で、裸電球がキラキラ輝いていた記憶がある。』
反面、今流行りの谷中ネコや、谷中ぎんざの商店街があどは割とあっさりした記述で抑えられています。この本が書かれた昭和の最後頃は今ほど話題ではなかった、あるいは著者の思いの入れ方によるのでしょうね。
この本を読んだあとからは、街の風景の鮮度が上がったように思います。地元に誇りをもつには、よく知ることから始めたいですね。