【読書】暗幕のゲルニカ/原田マハ
知らなかった。9・11後のアメリカの武力行使決断にこんな裏話があったのか。
アメリカのイラク侵攻は記憶に新しいが、テレビゲームの世界のように、機械が文字通り機械的に人を殺す印象しかなく、戦争が生身の人間の殺し合いからかけ離れたところでなされるようになってしまったそら恐ろしい分岐点となってしまった。
9・11の記憶を呼び覚ます材料ともなる本作が、おぼろげだったゲルニカの作品の意味を、そして力を、私のような美術初心者にも、有り余る膨大な資料の中から丹念に、わかりやすく、小説というカタチで優しく紐解いてくれ、まるで一流講師の生の講義を受けるようなライブ感覚を体験できるところに、この作品の大きな価値があるように思う。
芸術作品は、ゲルニカのように作者の手や意思を離れて、時にそれがシンボルとなり、架け橋となり、人々の心に突き刺さり、時代をも超えていく。
一級品は見るものを揺り動かす力を持ちうる。ストーリーや展開には賛否があるだろうが、秀逸と評される美術作品については、どのようにしてそれが誕生したのか、サイドストーリーを知っていたほうが、ぐっと深く作品を理解することにつながることを教えてくれた。作品に共感するか反論するからはそれからにしたい。それが、名作への礼儀であるような気すら私にはしたからだ。名作への接し方を考えさせてくれた極上の読書だった。